このせつ・せつこのアンソロジー参 雪月風花 サンプル
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さっちゃんさん
ウチは礼拝堂にいた。
そこは麻帆良学園内の時計塔とも呼ばれる場所で、赤レンガで造られたそ
れは西洋の古くからある伝統的な建物に似ている。
ウチはこの礼拝堂が醸し出す独特の雰囲気が大好きだった。なんだか現実
とは違う――もちろんファンタスティックな魔法世界とも違う――神秘的な
世界にいるようで、そんな不思議な感覚に酔いしれてしまう。ふわふわと、
ジェットコースターなどでは味わえない浮遊感がたまらなく怖くて、そして
何故かとても心地良いのだ。
芹さん
国語の授業。
机の上に横たわり重なる本。
頬杖をついたついでに傾いた頭で背表紙を見詰める。
万葉集。古今和歌集。拾遺和歌集。全て、原文のみの本。
いいわよね木乃香は京都出身だし。なんて言われても苦笑しか返せなかっ
た。出身とか関係ないと思う。
霧島 維さん
沈み込んでいこうとしている夕陽は、いつだってあの日を思い出させよう
としているみたいだった。
麻帆良学園は巨大な学園都市で、都会とはだいぶ離れた立地を持つ。
そのおかげで、周辺には学園とは関係のない施設がない。高層ビルや高層
マンションのような、景観を遮るものがない。
フィレンツェのような街並みやって言われている、麻帆良一帯がオレンジ
に染まる時間帯は、まるで木乃香にとって幼い頃言い聞かされていた、立ち
寄ってはいけない危険な場所のようだった。
桜姫 咲夜さん
私たちが魔法世界に飛ばされて早三日が経った。
無事に明日菜さんにはお会いできたが……
木乃香お嬢様にはお会いできていない。
「木乃香お嬢様……ご無事でおられるのでしょうか……」
一人、森の中で空を見上げ呟く。
じぇっとさん
君が修学旅行で打ち解けてくれてから、学校の帰りは一緒に帰るのが決ま
り事みたいになっていた。
今までだって、せっちゃんはいつもウチのことを陰で見守っていていたわ
けだから、一緒に帰っていたようなものだけど……ウチは知らなかったんだ
からノーカウントや。
今日も学校の帰り道、一緒に寮までの道を歩いていた。
明日から夏休みということで、寮への道を歩く学生たちはどこかそわそわ、
わくわくしていることがすぐに空気で伝わってきていた。
森見 真琴さん
遊び疲れた身体を木陰に投げ出すと、腕や首がちくちくした。
だが、その草むらの感触と匂いが、むしろ心地よかった。
二人で一緒に身体を伸ばしてお昼寝をする。
そんな、子供の頃の思い出。
「お嬢――」
木乃香を見つけて声をかけようとした刹那が慌てて口をつぐんだ。
高宮
何とか課題が終わり、外の空気を吸おうと向かったテラス。
扉を開けると柔らかな風が髪をなでる。
うっすらと浮かんだ汗が冷やされ、身震いをする。
思いのほか暗いことを不思議に思い、空を見上げようとすると……
「どうかされたんですか」
建物から現れたのは、冬制服を身に纏った幼馴染。