息抜きをしようと向かった屋上。
階段を上り、そこへと向かう。
エスカレーターやエレベーターを使わない。
自分の力で行った方が気持ちが良いから。
一段一段あがって……たどり着いたのは一枚の扉。
ボタンを押して、扉を開く。
開いた扉の隙間から、心地良い風が頬をなでる。
開けた向こうにある、お気に入りの場所。
だけど……
「え……」
そこにいたのは、ここに入るはずのない人。
その人はどこか遠くを見つめていて……
ざっと強い風が吹く。
肩よりものびた茶色い髪が風になびいた。
橙と混ざる茶……そして藍。
その光景に息をのむ。
つかみ所が無く、近そうで遠い存在である貴女。
この橙の中に溶けて消えてしまいそうで……
思わず上着の裾を掴む。
「ん、どうかしたん?」
優しく向けられた笑顔に。
なんと答えたらいいのだろう。
「ええ風が吹いとるやろ」
応えられない私に貴女はそう呟く。
「あんな、ここは私のお気に入りの場所なんや」
その言葉に驚く。
顔に出ていたのか、楽しそうに笑う貴女。
「疲れたら、風に吹かれるとええ。風はなんでも包み込んで流してくれる」
なぜだろう。
小柄なはずの背中が大きく見えた。
相手はご想像にお任せします(こら