なのはトライアングラー無料配布
      パラレル 三姉妹
                      とある放課後の風景




 授業とホームルームが終り、教室が賑やかになる。
 夕飯の買出しをしていこうかと悩みながら歩いていると、空の様子がおかしいことに気がついた。
 先ほどまで蒼かったのに、今はもう黒い雲が空を覆っていた。
 出掛けに見た天気予報を思い出す。
 夜にはかなりまとまった雨が降るといっていたけれど、どうも夜までもたなかったようだ。
 暗くなった空に走る光と音。
 雷。
――胸騒ぎがする。
 鞄をしっかり抱えると家へと急いだ。

    ◇

 かなり急いだけれど、家まであと少しというところで雨は降り出した。
 本降りになる前に駆け込むことができたので、濡れ鼠にならずにすんだ。
 鍵を回して扉を開ける。
 扉を開けると、そこに広がるのは明かりのない闇。
「ただいま」
 靴を脱いで上がるけれど、誰の返事もない。
 さらに強くなる雨の音と、ときおり光る稲光と響く雷鳴。
――それだけじゃ……ない?
 暗い部屋に響くのは……しゃくりあげる音。
「っ<」
 音のした方へと走った。

 二階へ駆け上がり、扉を開く。 
 そこにいたのは……
「おねえ……ちゃん?」
 私の顔を見ると、腕の中に飛び込んでいたのは末っ子のはやて。
「おねえ……ちゃん! おねえちゃん!!」
 よほど怖かったのか、しっかりと私の上着を握り締めて泣きじゃくっている。
「ごめんね、帰ってくるのおそくなって」
 抱きしめて背中をぽんぽんと撫でる。
「もう大丈夫だから」
「……っく……うん……」
 しゃくりあげながらも、返事をしてくれた。
「お留守番ありがとう。よく頑張ったね。えらいよ、はやて」
 くしゃりと頭を撫でると、やっと笑ってくれた。

    ◇

 部屋に鳴り響くのは着信を告げる音。
 びくりとはやての肩が跳ねた。
「大丈夫。電話だよ」
 受話器をとるために立ち上がろうとすると、はやてが今にも泣きそうな顔になる。
「おいで」
 はやてを抱きかかえると、受話器まで急いだ。

「はい、テスタロッ……」
「あ、お姉ちゃん」
 こちらが名乗り終わる前に、受話器の向こうから聞こえてきたのは、もう一人の妹の声。
「なのは?」
「うん。あの……ね。帰るのが遅くなりそうなんだ」
 どうにも歯切れが悪い。
「どうかしたの」
「えっと……学校で雨宿りしてるんだけど、止みそうになくて」
「あれ? 置き傘してるって言ってなかったっけ」
 朝、出かけるときに傘を渡そうとした時のやりとりを思い出す。
「なんか勘違いだったみたいで……にゃはは」
 私の知る限り、なのはが思い違いすることはほとんどない。
 ということは……
「おねえちゃん。だれからなん」
 腕の中で、はやてが聞いてくる。
「なのはから」
「なのはおねえちゃん?」
「どうも傘持ってないみたいなんだ」
「こんなに雨ふっとるのに?」
 とたんに心配そうな顔になるはやて。
「あれ? もしかして、はやてちゃんもそこにいるの?」
「あ、うん。ここにいるよ。ほら、はやて」
 受話器をはやての方に向けた。
「なのはおねえちゃん?」
「あ、ほんとだ。うん、なのはだよ」
 恐る恐るしゃべるはやての声に、くすくすと笑いながら返すなのは。
 はやてがなのはと話ている間に時計を見る。
 時計の針は最終下校の時刻に近く、雨脚は強いまま。
 止みそうにないのなら……
 心は決まった。
「「おねえちゃん?」」
 二人の妹に呼ばれた。
「あ、うん。はやて、受話器かしてもらえる?」
「はい」
 はやてから受話器を受け取る。
「なのは」
「は、はい」
「十分くらい時間つぶして」
「え?」
「それと、時間になったら下駄箱のところに来て」
「お姉ちゃん?」
「今からそっちに行くから」
「え?」
「じゃ、後で」
 そういうと受話器を置いた。

    ◇

「おねえちゃん、おでかけするん?」
「うん。なのはをむかえに」
「おねえちゃん……」
 また泣きそうな顔になるはやてに。
「一緒に行く? それともお留守番してる?」
「え……」
 私の上げた選択肢にきょとんとするはやて。
「一緒に行くと雨には濡れちゃうけど、私と一緒。お留守番をすると雨には濡れないけど、一人で頑張ってもらうことになる……どうかな」
 目線を合わせて、それぞれについて説明をする。
 しばらく考えてはやては…… 
「いっしょにいく」
 予想通りの答えを返した。
「すごく濡れちゃうかもしれないよ、それに雷も鳴ってる。いいの?」
 我ながら意地が悪いと思いながらも問いかける。
「おねえちゃんと一緒なら平気や」
 その答えに破顔する。
「じゃ、一緒に行こう。なのはをむかえに」
「うん!」
 はやてにレインコートを着せ、自分はナイロンの上着を羽織る。
 それぞれの分ともう一つなのはの傘を持って扉を開く。
 思いのほか強い雨脚に……
「はやて、これ持っててもらえるかな」
「え?」
 なのはの傘を渡すと、はやてを抱える。
「走るよ、しっかりつかまってて」
「うん」
 はやての返事を確認すると、私は雨の中を駆け出した。

    ◇

「なのは」
「なのはおねえちゃ〜ん」
 きっちり十分後、下駄箱にたどり着いた私達をびっくりしたなのはが迎えてくれた。
「お姉ちゃん……はやてちゃんまで!」
 はやてを降ろすと、なのはに抱きついた。
 何でここにいるのかと驚いていたけれど、しっかりと抱き留めていた。
 その様子はとても微笑ましくて、頬がゆるむ。
 ほどなく、最終下校のチャイムが鳴った。
「それじゃ、帰ろうか」
「はい、なのはおねえちゃん」
 はやてを促して、なのはの傘を渡す。
「うん」
「おねえちゃん」
「「ん?」」
 私となのはの裾を掴む小さな手を、そっと握るとはやてを真ん中にして歩き始めた。

 少し収まってはきたものの、まだ降り続く雨。
「はやてちゃん」
「なぁに? なのはおねえちゃん」
「雷、苦手じゃなかったっけ?」
「苦手やよ」
「え? じゃ、なんで」
「だって、なのはおねえちゃん困っとったから」
「あ……」
「それにな」
 つないだ手を、きゅっと握られた。
「お姉ちゃんたちがいるからへーきや」
「そっか」
「うん!」
「お姉ちゃん、はやてちゃん、ありがとう」
 なのはの笑顔に、私とはやても笑顔を返した。

 なんとか家に到着し、玄関ではやてのレインコートを脱がせる。
 水をはじく素材であって、保温性はあまりなかったようで……
「くしゅっ」
 小さなくしゃみが聞こえた。
「はやてちゃん、大丈夫?」
「すぐにお風呂の支度するから、入っておいで」
「う〜」
 うなってなかなか動こうとしない、はやて。
 その理由に思い当たり、なのはに目配せをした。
 一つ頷くと、なのはが動く。
「一緒に入ろうか、はやてちゃん」
「あ……うん!」
「じゃ、なのは。よろしくね」
「うん」
 お風呂場へと向かう、二人の背中を見送った。

    ◇

 全員がお風呂から上がり、夕食を食べ終わった後。
 部屋で本を読んでいると、ドアがノックされた。
 
「お姉ちゃん、入ってもいい?」
「どうぞ」
 答えると、ゆっくりと扉が開きなのはが部屋に入ってくる。
「あのね……お姉ちゃん」
「ん?」
「言わないといけないことが……あるんだけど」
「なにかな」
「傘のこと……なんだけど」
「うん」
 焦らせないようにゆったりと頷く。
「置き傘はちゃんとあったんだ……だけど……」
 そこまで言って、言いよどむ。
「その傘を貸してあげたんだよね」
「え……」
「置き傘はあった。だけど、困ってる娘がいたから貸してあげた。折り畳み傘を持ってきているからって言って」
 その言葉になのはの瞳が大きく見開かれた。
「でも、朝慌ててたから鞄の中に折り畳み傘を入れ忘れたことに気づいた……そんなところでしょ」
「な、なんでわかったの?」
「わかるよ。だって、なのはのことだから」
「お姉ちゃん……」
「やさしいね」
 ぽむぽむと頭を撫でる。
「もう……お姉ちゃん!」
 いつもは払いのけられるのに。
 少しふくれてはいるけれど、おとなしく撫でられているなのはに微笑む。
「私は、そんなやさしいなのはが好きだよ」
「お姉ちゃん……あ、あのっ」
「ん?」
「ありがとう。迎えに来てくれて」
「うん」
 最後にくしゃりと撫でると、手をどかした。
「でも、はやてちゃんが一緒だと思わなかった」
 雷が苦手なはやてが、迎えにくるなど思っていなかったのだろう。
「はやてが決めたんだよ。家にいるか、一緒に行くか」
「そうなの?」
「うん。はやても心配だったんだよ。なのはのことが」
「そっか……」
 久しぶりになのはと話す時間は、とても穏やかで。
 たまにはこういうのもいいな……と思った。

   ◇

 部屋でなのはと話していると、ドアがノックされた。
 この家にいるのはあと一人しかいないので、迎えに行く。
 扉の向こうに立っていたのは、寝ているはずの末っ子。
「はやて?」
「フェイト……おねえちゃん」
 パジャマ姿のはやてが、私の上着の裾を掴んだ。
「おねえちゃん……」
「どうしたの?」
「あんな……」
 遠くで鳴った雷の音に、はやての肩がびくりと動く。
「ん?」
「いっしょにねてもええ?」
 今にも泣きそうな顔で頼まれたら、断れるわけがない。 
「いいよ」
 二つ返事で頷く。
「じゃ、私は部屋に戻るね」
 部屋に戻ろうとするなのはの袖を、控えめに引いて止めるはやて。
「あ……そうやなくて」
「どうしたの、はやてちゃん」
「あんな……フェイトおねえちゃんと、なのはおねえちゃんも一緒に……あかん?」
 普段からあまり頼みごとをしない末っ子からのお願い。
 なのはと顔を見合わせ微笑む。
「それじゃ、三人で一緒に寝ようか」
「ええの?」
 きょとんとするはやてに。
「良いもなにも」
「はやてはもう少し、わがまま言ってもいいんだよ」
「でも……」
「はやてちゃん?」
「いいんだよ。はやては、私となのはの妹なんだから」
「おねえちゃん……ありがとう」
「それじゃ、今日は三人一緒に寝よう」
「うん!」

 私となのはの間で、すやすやと眠るはやて。
「もう寝ちゃったね」
「そうだね」
 どこか寂しそうな顔をしているのに気が付いた。
「なのは」
 手招きをすると、こちらに身を乗り出してくるなのは。
「なに?」
 抱きよせて、蒼い瞳をのぞき込む。
「わっ、お姉ちゃん?」
 額に唇を寄せると、真っ赤になったなのはに微笑む。
「おやすみ」
「お、おやすみなさい……」
 腕の中にある、二つのぬくもりを感じながら眼瞼を閉じる。
 すぐに意識は落ちていった。
 遠くで鳴り響く雷も、窓を叩く雨音も聞こえないくらい深く……
                         FIN




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長女 フェイトさん 20(この話の時16歳)
大学2年生
家事全般OK
武道の心得あり
妹に甘い
お気に入り ブラックコーヒー

次女 なのはさん 17(この話の時13歳)
高2
風紀委員
武道の心得少しあり
おねえちゃんこ
お気に入りはミルクティ

三女 はやてさん 15(この話の時11歳)
図書委員
武道の心得なし
お姉ちゃん大好き
お気に入りはココア

 なんか思いついた走り書き←

奥付
 パラレル 三姉妹 とある放課後の風景

 初出:2009年5月3日(なのはトライアングラー)

              発行:気まぐれ工房 蒼
               発行者:高宮蒼涼

kimagurekoubou_sou@hotmail.com




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