Wind Impressions 南条様 リリマジ6新刊 影法師 表紙より



 ミッドチルダに引っ越しをしてからしばらく。
 仕事が終わって帰宅すると、誰か先に帰ってきているようだった。
 気配はすれど、特に声や音が聞こえない。
「ただいま……だれかおるん?」
 声をかけてみるも返事はない。
 リビングへと向かうとそこには……
「……なんや」
 制服のままソファで寝てしまっている鉄槌の騎士がいた。
 具合でも悪いのかと駆け寄ったが、魔力値が少し下がっている以外は特に異常はないことを確認して安堵する。
 魔力の消費が激しい任務でもあったのか、かなり深く眠っているようだ。
「ほんまに……寝顔はあのときと変わらんな……」
 初めて会って、一緒に暮らし始めたときと変わらないその寝顔。
 すやすやと気持ちよさそうに寝ている姿に、顔がほころぶ。
 最近は新しく妹ができたため、甘えてくることがなくなってしまった。
 けれど、寂しいときに私の袖を引く癖は昔と変わらない。
 くるくる変わる表情。
 不器用に甘える仕草。
 ぶっきらぼうな言葉の奥にある優しさ。
 こちらまで嬉しくなるような笑顔。
 誰よりもそばで。
 いつでも……どんなときでも……
 それは、これから先も変わらないで欲しいと願う。
「なぁ……私のこと、どう思うとるん」
 唇から零れたのは、一番深くにあったもので……
 未だに夢の中にいる騎士から紡いだ言葉に返事があるわけもなく、苦笑する。
「ほんまに、なにやっとるんやろ」
 いくら暖かくなり始めたとはいえ、このままソファで寝ていたら風邪を引いてしまう。
 寝室から毛布を持ってくると、そっとかけた。
「疲れとったんやね」
 そっと髪を撫でると、頬にあった傷に気づく。
「女の子なんやから気いつけなあかんよ」
 指先に淡い光を集め、そっと傷を撫でて痕を消す。
「ん……」
 起こしてしまったかと慌てるが、規則正しい呼吸は変わらなくて安堵する。
「今はゆっくり休み」
 そっと撫でた髪はあの頃のように柔らかかった。

    ◇

 最初に感じたのは、柔らかい何かに包まれる感触。
 そして、頬に感じるぬくもり
 あったかい……
 よく知るぬくもり……これは……
「ん……」
 眼瞼をあげると辺りはもう暗くなっていて、結構な時間寝ていたことが分かる。
 時計を探そうと辺りを見回すと、カーテンの引かれていない窓が目に入った。
 窓の前にある影。
 何だろうと目をこらす。
 肩までの茶色い髪。
 少し小柄ではあるが、自分よりも大きい体を包むのは茶色を基調とした制服。
 上着の袖から手が出ていないのは、肩に羽織っているからか。
 いつもと違う雰囲気に息をのむ。
 魔力光の色に似た月明かりを浴びたその姿は、神秘的で綺麗だと思った。
 でも、その後ろ姿はどこか遠くへ行ってしまいそうで……
「はや……て?」
 主の名を呼んだ。
 そこにいることを確かめるために。
 ゆっくりと振り返ると、いつもの優しい藍色の双眸が見えて安心する。
「起きたん?」
「ん……たぶん」
 まだ、ぽあぽあと浮遊感のある状態では頭が回らなくて。
「疲れとるんやろ?」
「ちょっとだけ……」
 今回の任務は得意としている破壊ではなく、封印のサポートだった。
 今回の封印対象はなぜかやたらと魔力が大きく、押さえ込むのにかなりの魔力を消費してしまったようだ。
 ふと、気づいた。
「あれ……リインは」
 いつもはやてのそばにいる末っ子の姿がなかった。
「あ、今日はメンテナンスの日やよ」
「そっか……」
 そういえば朝出かけるときに、一人でいけるといっていたことを思い出す。
「もう少し、寝とってもええよ」
 肩にかけていた上着をソファにかけると、はやては隣に座った。
「……起きる」
 せっかくはやてが帰ってきているのに、寝ているなんてもったいない。
「ずいぶん気持ちよさそうに寝とったな。でも、ソファで寝たらあかんよ?風邪引いてまう」
 気にかけてくれていることが嬉しくもあり、また心配させてしまったことが哀しくもある。
「……ごめんなさい」
 素直に謝った。
「ん、気いつけなあかんよ?」
「うん、わかった」
「ええお返事や」
 そう言うと、ぽむぽむと頭を撫でられた。

 初めて会ったとききから比べると少し大きくなった掌。
 でも、そのぬくもりは変わらなくて。
 ずっと続いてほしいと思う。
「えへへ」
「お、機嫌がええな」
「だって、はやてに撫でてもらうの久しぶりだし」
「あ……もう。かわええな〜」
「は、はやて!?」
 いきなり抱きつかれ、ソファに倒れ込む。
 いきなりのことだったが、どうにか頭を打たずにすんだ。
「あ〜この抱き心地……ええな〜」
 抱きしめられ、すりすりと頬ずりをされる。
「はやて、やめっつ。くすぐったいってば」
「いやや。はなさんよ」
 久しぶりに見る、主の無邪気な姿に頬がゆるむ。
 しばらくするとぴたりと頬ずりが止まった。 
「はやて?」
 急におとなしくなった主に声をかける。
「あ〜落ち着くわ〜」
 しみじみとつぶやかれた言葉に、心の奥からあたたかさが溢れる。
「なぁ、ヴィータ」
「ん?」
 背中に回され、制服の上着を掴むはやての手に、少しだけ込められた力。
「もう少しだけ……このままでいてもええかな?」
 紡がれたのは、ささやかなお願い。
 甘えてくれることが嬉しくて。
「うん」
 抱きしめ返すと、嬉しそな笑顔をする主に鼓動が跳ねる。 
「なぁ……ヴィータ」
「な、なに?」
 早くなった鼓動を聞かれたのではないかと焦る。
「これからも……ずっと一緒にいてくれるか」
 俯いているため、どんな顔をしているか分からないけれど、少し震えた声で紡がれた言葉。
 雪の降る日に誓ったことを想い出す。
 迷うことなんてない。
 はやてのなかに融けた、先代の祝福の風がくれた贈り物。
 この限りある命は、はやてのために……いや、はやてと共にあるためのもの。
 だから……
「……うん。もちろん」
 腕の中に感じるぬくもりを離さないように、抱きしめた。 

    ◇

 どれくらい過ぎた頃だろう。
 くーと鳴ったのは空腹を訴えるお腹。
 その音に思わず二人で吹き出す。
「さ、みんなが帰って来るまでに作るで」
 起き上がり振り返ったその顔は、いつもと変わらない笑顔。
「そうやな……今日はハンバーグにしよか」
「やった!」
「ヴィータも手伝ってな」
 Yシャツの上からエプロンを掛けたはやては、とても楽しそうで。
「うん」
 その背中を追って、キッチンへと向かった。

                         END




Copyright (c) 2005-2009 Kimagurekoubou sou・Takamiya Souryou All rights reserved.
Special tkanks Wind Impressions 南条様




 リリマジ6の打ち上げで Wind Impressions の南条様より頂いたご本の表紙を見て、
思わず書きたくなりかりかり……

はやて→←ヴィータ?
相変わらずの落ちとなりましたが、それは仕様です←(まてい



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送