感じる温度と吐息。
 至近にあるのは翠紅。
 早鐘の様に鳴る心臓がうるさく、息苦しささえ覚える。
 なぁ……この状況どうなっとるん?

   worrier?

 朝、どうしてかいつもより早く目が覚めた。
 もう少し寝られると横になっていたけれど、全く訪れない睡魔。
 二度寝することをあきらめて、起き上がる。
 大きくのびをしたあと、首を回すと音がして苦笑。
 そんなに忙しいとは思っていなかったが、少し疲れがたまっているのかもしれない。
 でも、そんな状況でもたまる書類達。
 それは文字通り山のようになっていることを思い出し、ため息をつく。
 いつもの二時間前を指している時計。
 どうせ寝られないのならば……と起き上がり、制服に袖を通す。
 ほぼ一日中身に纏う紺と青を基調とした本局の制服。
 最後に私服に袖を通したのはいつだっただろう。
 そんなことを思ったけれど考えるのをやめ、部屋を出た。

 たまっていた書類をこなそうと、向かった執務室。
 お気に入りの温度に淹れた紅茶をカップを片手に、席につく。
 一口含んで、大きく深呼吸。

「ほな、はじめよか」

 コンソールを叩く音が、部屋に響いた。

   +

 モニタの端にアラートが浮かぶ。
 執務室のロックを解除しようとしているというもの。
 呼び出しのブザーを鳴らさないということは、この部屋に入ることを許されている人物ということ。
 仕事の相棒、つまりは補佐官。

 扉が開き、空気が動くと……

「あ……」

 きっとこんな時間に来ているとは思っていなかったのだろう。
 ぽかんとしている補佐官。
 そのままにしておくのもどうかと思い、挨拶。

「おはようさん」
「お、おはようございます」

 律儀に挨拶をかえす姿に苦笑するけれど、モニタに視線を戻す。
 こちらをじっと見つめ、一向に動こうとしない補佐官にもう一度視線を戻す。

「ん?」
「な……」
「な?」

「なにやってるんですか!」

 執務室に響き渡る大音声に、思わず耳を押さえる。

「え? なにって仕事やけど」

「まさか昨日から?」
「ちゃんと帰ったで、ちゃんと寝てきたよ」

 うん、嘘は言っていない。

「私がここ出たのが何時か覚えてます?」
「ん? 二十時くらいやろ」
「ここに来たのは?」
「七時ぐっ……」

 最後まで紡ぐ前に、視界が変わった。
 至近にあるのは翠紅。
 感じる温度と吐息。

「いい加減休んで下さいッッ!! 倒れますよ!?」

 早鐘の様に鳴る心臓がうるさく、息苦しささえ覚える。

 ……って、息苦しい?

「ちょぉ! わーったから、ひっぱるんやないっ」

 ネクタイ引っ張ったらしまるやろ!

「あ……ごめんなさい」
「……ごほっ、ごほっ」

 咳き込み、なんとか酸素を取り込む。

「だ、大丈夫ですか」
「は……は……さすがに今のは危なかったわ!」

 昏倒させる気か!

「と、とにかくお昼まで寝てきてください」
「せやかて、書類……」
「私がやっておきますから」

 涙をためながらも、まっすぐむけられる翠紅に肩をすくめた。

「ほんまに……」

 腕の中に閉じ込め、金色をそっとなでる。

「あ……」
「心配かけてゴメンな」
「そ、そんなんじゃ……」
「ありがとうな」

 最後にくしゃりとなでると、執務室を後にすることにした。



   ○ 本局廊下にて

 教導も終わり、オフィスに帰る途中。
 久しぶりにあった幼なじみの姿に、思わず駆け寄った。


「はやてちゃん! 誰に襲われたの!!」

 そこには髪がぼさぼさで、制服もよれよれしている海上警備部捜査司令。

「ちょっと心配性な部下がおってな……」

 どこか疲れた様子で笑うはやてちゃんの制服を直すのを手伝うと、はらりと落ちる金色。

「あれ?」

 心配性?
 心配性→過保護→金色……

 それって……

「ちょぉまちぃ! なんでレイジング・ハート起動しとるん!」
「はやて……ちゃん?」
「な、なのはちゃん……たぶん考えとるんとちゃうから!」

 あれ、どうしたの?
 顔色が悪いよ?

「なにがちがうのかな?」

 うん、いきなりはよくないよね。
 一つ呼吸を置く。

「なのはちゃんの娘やから!」
「え……そうなの?」

 意外な言葉に、収束させていた魔力が霧散する。

「ほんまや」

 こういう時に、はやてちゃんは冗談をいうようなことはしない。
 それを知っているから、すぐに謝った。

「ご、ごめんね」
「あ……うん。やっぱり親子なんやな……と」
「え?」
「なんでもない……」

 どこか疲れたはやてちゃんの背中を見送った。

 そのころ、遠い次元の海で、金髪の執務官がくしゃみをしていたそうな。

 どっとはらい











SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送