ふらりとのぼった寮の屋上。 あたたかくなってきたとはいえ、夜はコートを羽織っていてもあたりの空気は冷たい。 呼吸をすると、白が広がっていった。 もじよりも ことばよりも…… 扉が開き空気が動く、でも振り返らない。 「こちらにいらっしゃったのですね」 後ろから包まれたぬくもりに、視界がぼやける。 「ただいま戻りました」 「……うん」 ささやかれた言葉が体に広がっていく。 「それと……誕生日おめでとうございました」 その言葉に振り返り、上着に顔を埋める。 「メールできなくてすみま……」 これから紡がれるであろう言葉を遮るために、さらに強く抱きしめる。 ほおを伝う雫が上着を濡らした。 「お嬢様?」 怪訝そうにしている貴女に、言葉を紡ぐ。 「いま、ここにおるやん」 間に合わなかったことをわびるよりも…… それよりも…… 今このときを大切にしてほしいから。 「そうですね……」 あごに指をかけられ、あげられた顔。 こつりとあわせる額。 久しぶりに見た、漆黒にほほえむ。 「おかえり、せっちゃん」 返ってきたのは……とびきりの笑顔。 Fin |
仕事で当日いえなかった剣士が、姫へと…… 姫にはメールの文字よりも、紡がれる言葉よりも…… 今そこにいるという、剣士のぬくもりがなによりもうれしいのではないでしょうか。 お嬢様、誕生日おめでとうございました! 2010.03.20 |
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