吹き抜ける風が涼しくなるようになった頃。
 ふらりと向かった世界樹への道。
 その途中で何かに呼ばれたような気がして、近くの小道を進んでいく。

「あ……」

 そこにいたのは、よく知る左で一つにまとめられた漆黒。
 辺りの空気はとてもおだやかで……
 どこまでも透明で、澄んだ水のよう。

 それは、まるで一枚の絵画のような美しさでそこにあった。


   ガーデニア


「何かご用ですか、お嬢様」

 この距離で気づかれないわけがない。
 苦笑しつつ、隣に収まる。

「なにみとったん?」
「あれです」

 指さされた先に見えたのは、木々の緑の中にある白。
 黄色を中心にして、雪の結晶のように六つ広がっている白。

「花……やろか」
「えぇ」
「なんて名前なん?」
「お嬢様はよく知ってると思いますよ」
「ん〜ヒント」
「乾燥させた実は、繊維や食べ物を染めるのに使われています」
「う〜」
「さつまいもや栗、和菓子、たくあんに使われます」
「それやと黄色……あ!」
「答えは?」
「クチナシや!」
「ご名答」
「花は初めて見たわ〜。こんなところに咲いとるんやね」
「人家周辺に植えられることが多いのですが、アリが寄ってくるといって敬遠されることもあるんです」
「せっちゃん物知りや」
「そんなことはないですよ」
「そんなことある」
「えっと、ありがとうございます……でいいんですかね」
「うん」

 同じ物を見て笑いあうことができる。
 ありふれたことかもしれないけれど、それがうれしい。

 冷たい風に首を撫でられ、思わず身をすくめる。 
 そろそろ夏が近くなった頃なのに、上着を着ていても少し肌寒い。
 でも……

「さすがに冷えてきましたね」

 ふわりと包まれたのは、よく知る薫りとぬくもり。
 肩にかけられたのは、見慣れた上着。

「そろそろ日も暮れます。戻りましょうか」

 耳元でささやかれた言葉に、はねる鼓動。
 あわてて上着を返そうとしても、きっと受け取ってもらえない。
 だから……

「うん」

 上着を貸してくれた剣士が風邪を引かないように、腕に抱きついた。




Fin








『絵画、微笑み、花』

 クチナシ
 アカネ科クチナシ属の常緑低木。
 花言葉は
「優雅」「洗練」「清潔」「喜びを運ぶ」
「とても幸せです」
「私は幸せ者」



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