「ん……おわったっ」

 上司が残した仕事を片付け終わり、大きくのびをひとつ。
 モニタを閉じて、席を立った。
 向かった先は、空が見えるところ。
 そして……良い風の通る場所。
 廊下を抜けて、突き当たりを右にすすむと、正面にある扉を開けた。



 風の吹く場所で……





 吹き抜ける風が、左で一つにまとめた髪をなびかせる。
 息抜きに訪れたお気に入りの場所には、先客がいた。

 地面におかれているのは、執務をしているときに羽織っているコートと上着。
 タイトスカートから出された、白いシャツ。
 胸元にあるのは、ゆるめられたネクタイ。
 風になびく茶色の髪。
 それは……この場所を教えてくれた人。

「どうしたんですか。こんなところで」

 声をかけると、どこかぼんやりとこちらをみる藍。

「なんやヴィヴィオか」
「もう……ヴィヴィオか、じゃないですよ」
「ゴメンな。なんかちょっと……な」

 そうつぶやくと、すぐに空へと向けられる瞳。
 それに苦笑すると、自分もネクタイをゆるめて座る。
 背中に感じるのは、かすかなぬくもり。
 触れていないけれど、感じることができる距離。
 そこは私に許された場所。

「なぁ……ヴィヴィオ」
「なんですか」
「いや……のびたんやな、髪」

 見なくても分かる。 
 貴女が指に絡めているのは、私の淡い金色。
 髪をのばしたのは、叶えたいことがあったから。
 かつて貴女が見ていた人たちの様になりたかったから。
 ……なんて言ったら笑われてしまうかな。

 いつまでも空を見つめている貴女は、どこか迷子の子供のようで……そっと掌を重ねる。
 私がここにいることを感じてほしくて。

 いろいろな仕事をこなし、料理や、裁縫を教えてくれた。
 小さいころ頭をなでてくれた、あたたかいもの。

 今では、私の方が大きくなったそれ。

 びくりと肩が跳ねるのがわかり、慌てて手をどける。

「あ……いや……でしたか」
「……だ……な……わ」
「え、今なんて……」
「さぁ……な」
「ちょっと、はやてさん」

 聞き返すけれど、はぐらかされてしまった。
 この様子だと、話してくれる気はなさそうだということが分かり苦笑。

 同じく空を見上げていると、左手に感じるぬくもりに驚くけれど……振り返らない。
 だって……それをすると、きっとこの時が終わってしまうから。

「なぁ、ヴィヴィオ」
「はい?」
「もう少し……このままでいてもええか」

 その言葉がうれしくて……

「いいですよ……いつまででも」

 貴女のぬくもりがある、この場所で……
 変わりゆく、空の色を楽しんだ。


               Fin







サンぽんさんのところの2011/01/31のイラストを見たら手が勝手に……←。
素敵なイラストをありがとうございました。
眼福眼福(まてい

2011.02.02



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