これはどういう状況なのだろう。
 背中にはシーツの感触。
 そして……見上げた先には艶やかな金色。
 突然降ってきた雨に濡れ、仮眠室にあるシャワーを貸して……
 
 
 これが夢だったら……
 そんなことを考えるほど、色々動転している。
 ええから落ち着けっ、平常心やっ!
 とか思うけれど、いつもより速い鼓動は落ち着くことはなく……
 せめて聞こえないで欲しいと願うばかり。

「……に……か」
「え?」

 桜色の唇から零れた言葉。
 それはとても小さくて……

「……私……そんなに魅力ないですか?」

 その声はいつもとは違って……

「はやてさんが……他の誰かを見てると苦しいんです」

 掠れて……

「こんなこと、誰にでもなんてしてないですっ!」

 震えていた。 

「私じゃ……ダメ……なんですか」

 翠紅に浮かぶのは、透明な雫。

「もう……子供じゃなんですよ」

 頬を伝い……そしてシャツを濡らす。 

「いつになったら……はやてさんは私を見てくれるんですか」

 最近考え込んでいたかと思えば……
 こうやって悪い方へと考えるのは、誰かさんにそっくりだ。 
 ここらが年貢の納め時かもしれない。
 これから先にあるだろうことを考えるのは後でいい。
 今するべきことをすればいい。

「あ……もう、とりあえず」

 色々と覚悟を決めると、手をのばし……思い切り小突いた。

「あたっ」
「まったく……」

 とりあえず、雫が止まったことに安堵。
 大きく息を吸う。
 これから言葉を紡ぐために。

「気になる娘がずっと近くにおるんや、何とも思わないわけないやろ」

 翠紅に映るのは……藍。

「それって……」

 この反応……
 気づいてないところも、誰かさんそっくり。
 他の人のことには鋭いのに。
 全く難儀な……

「あ……もう! 私はヴィヴィオが大切だってゆうたんや。なんか文句あるん!」

 大きく見開かれる翠紅。
 むんずと手を掴み、引き寄せ……
 しっかりと抱きしめる。
 ちょうど、顔が胸の辺りに来るように……
 視界が狭くなってしまっている君に、私が教えられること。
 視覚だけでない、他のもの。

 ぬくもり。
 腕の強さ。
 そして……

「あ……」
「聞こえるやろ? こうしてるだけでおかしくなりそうや」

 いつまでも落ち着くことのない鼓動。

「こんな風には、誰にでもなるわけやない。それは分かるか?」

 頭をそっと撫でる。
 待たせてしまったことへの謝罪を込めて。

「……はい」

 気持ちよさそうに細まる翠紅に、頬がゆるむ。

「……どうかしたんですか?」
「やっと笑ったな〜って」
「っ! また、そんな風に言って」
「ええやん、かわええよ」
「もうっ!」
「あせらんでええ。だから、無理せんでええよ」

 その言葉に、再び溢れる雫。

「……て、さん……はやて……さん」

 腕の中で涙を流し、名前を呼ぶのは、大切な人。
 愛しさが溢れて止まらない。

 あやすように、そっと背中をさする。
 安心して泣ける場所になれたことが、うれしい。
 心を許してくれたことが、うれしい。
 自分のことを想っていていてくれたことが、うれしい。

 待たせたかもしれないけれど……
 これまで我慢していたのも事実。
 耳元にそっと唇を寄せ……

「そうそう、色々と覚悟しといてな」
「は……はい」


 その後何があったか?
 それは秘密っちゅうことにさせてもらうで。

             どっとはらい









サンぽんさんのところのこちらの記事から〜
相変わらずの手が勝手に……
なんか気づくと一時間くらい時間が消えていたミステリー←

こころよく掲載許可をくださったサンぽんさん。
ありがとうございました。

2011.11.11



indexに戻る


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送