目覚め……

「ありがとうございました」

 引き出しをひらいてみる。
 とばされはしなかったものの、点棒はほとんどない。

「あかんな……」

 牌をさわるのは楽しい。

 せやけど……
 まだ役もろくに覚えてへん。
 それとこの点差……

「きっついわ……」
「園城寺さん、お疲れさま」
「おつかれさん」

 渡された飲み物を一口含む。
 あ、おいしい。

「あかんわ……ぜんぜん歯がたたへん」
「そんなことあらへん、いい線行っとったやん」
「せやせや、ある程度打たんとわからんこともあるし」
「清水谷さん……江口さん」

 なんや遠いな……

 追いかけとるけど、背中しか見えん。
 誰が悪いわけやない……
 でも……

「なぁ、私は数あわせなんやろ?」

 口をついてでるのは、黒いもの。
 なんかもう……どうでもええ。

 中学校の部活だけれど、それなりに人数がいる。
 麻雀は四の倍数であればいい。
 確かに私が入ればキリのいい数になる。
 試合の機会は増える。

 せやけど……

「わざわざ私なんかと打っとらんで、ほかの強い人と打てばええ」
「なに……ゆうとるん?」
「はっきりゆうたろか? 私と打っとっても時間がもったいないゆうとるん」

 自分のせいで……
 この二人の時間を……
 可能性を……つぶしたくない。

「そんなことない!」
「私たちは園城寺さんと……」
「せや、園城寺!」

 もう……なんでもええ……
 なんでこんなに寒いんや……
 そのわりに、汗がでて……

 あれ? なんで卓が斜めに……

 どうでもええけど……
 床が……
 気持ちええな……

 そんなどうでもいいことを思っていた。


 なんや……
 あったかい……

 なにしとったっけ?
 学校で麻雀打っとって……


 ……そうだ
 このかんじは……

「怜! よかった……気がついた」

 頬にあたるのは、熱い雫。

「……ここは?」
「学校の保健室。江口さんが運んでくれたんや」
「さよか、後でお礼言わんと」

 見たことのある天井。
 何度かお世話になっている場所。

 起きあがろうとして気がつく。

「あの、手……」
「て? ……あ、ごめんな」

 あわてて離れるぬくもり。
 それが少し寂しかった。

「なぁ……」
「どうかしたん」
「また呼んでくれへん?」
「ん?」
「名前……」
「え?」

 見開かれる紫。

「さっき……初めて呼んでくれた」
「そ、それは……」

 ふいっとそらされる視線。
 けれど、肩からこぼれる黒髪からのぞいたのは、紅に染まる耳。

 なんでだろう。
 それだけのことなのに……ひどくうれしい。

「なぁ……こんな私でも、強うなれるんかな」

 この人をずっと見ていた。
 できることなら近くで……
 それができるのなら、頑張りがいもある。

「それじゃ……」

 それならば……自分も紡ごう。

「これからもよろしゅうな、竜華」
「っ!!」

 私はこの表情をずっと忘れないだろう。

         Fin








最初は苗字呼びだけど、そのうち変わって……
今では普通になっている膝枕も、なんかやり取りが合ったのではないかと思いつつ(はいはい
それはまた別の機会に……

2012.07.02


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