無限書庫での調べ物の帰り。
 廊下の窓から外を見上げると、あいにくの空模様。
 出かける前に天気予報を見ていなかったので、傘は持ってきていなかった。
 端末を操作して調べると、しばらく止みそうにないことがわかり、ため息とともに画面を閉じた。

 また外を見ようと顔を上げると、窓ガラスに映る紅翠。
 別に雨が嫌いというわけではない。
 いろんな表情をする空は、いろいろな人を思えるから。
 蒼、紅、そして……藍。
 
「なにしてるのかな……」

 ぽつりと零れた言葉に、苦笑する。
 みんなそれぞれの場所で頑張っているだろうことは、簡単に思い浮かべることができるから。
 頑張りすぎているような気も……しなくはないけれど。
 そんな姿を想像し、思わず笑みがこぼれた。

「こないなところで、どうしたん?」

 その声に振り返ると見えたのは、青を基調とした制服とその上に羽織った白いコート。
 肩に付くくらいの茶色い髪に、藍の双眸。
 先ほど思い浮かべた人物の一人。

「あ……こんにちは、はやてさん」
「こんにちは、ちゃんと会うのは久しぶりやね」
「そうですね。通信とかかメールとかはたまにしてますけど」
「せやな、何か見てたん?」
「それは……」

 どう説明したらいいか分からなくて口ごもっていると、違う質問がされた。

「なぁ、このあとって用事あるん?」
「いえ、ないですけど……」
「ほなら、ちょおつきおうてもらおか」
「え?」
「ほな、いこ」
「は、はやてさん!?」

 はやてさんに手を引かれ、局の廊下を進んだ。


   Blueberry Drops


 連れてこられたのは、大きな机と椅子のある部屋。
 本局であてがわれている、はやてさんの執務室。
 ソファにかけるように言い、主はコートと上着を脱いでどこかに行ってしまった。

「すわってて……いわれても」

 ソファの上まで散らかっているこの状態。
 片付けようかと手を伸ばしてみるけれど、そこかしこにある書類は、機密のものも多くプロテクトがかかっているもの。
 自分がここにいていいのか、すごく疑問に思う。
 そもそも、なんでここに呼ばれたのか分からない。
 適当によけて、座るとため息をついた。

「どないしたん?」

 その声に振り返ると、両手にコップを持った部屋の主。

「別に……」
「別にやないやろ……ほら、ゆうてみ」

 コップをテーブルの上に置くと、顔が近づく。
 見えるのは真剣な光を宿す藍。

「やさしすぎるのは、どうかと思いますよ」

 それは母親達が良くこぼしている台詞。
 果たしてその言葉が本人に届いているかは、かなり怪しかったりする。

「それってどういう……」
「……わからないならいいです。失礼しました」

 さらにため息を一つ。
 ここに居ても仕方ないと、立ち上がる。

「こら、ため息ついたら幸せが逃げてまうやろ」
「だったら、その逃げた分。捕まえたらどうですか」
「はい?」

 意味が分からないとばかりに、きょとんと見開かれる藍。
 本当にこの人は……分かっていない。
 自分に向けられる気持ちを……
 他の人には、これでもかというくらい鋭いのに。

「もう…………」

 ため息をもう一度つこうとして……

「ん!?」

 口の中に何かを放り込まれたことに驚き、目を見開く。
 唇をひとなでして、すっと離れるぬくもり。
 そして……舌で転がすと口の中に広がる甘みに、何を入れられたかに気付く。
 
「逃げた分、私が捕まえればええんやろ?」




 さっきまで触れていた指をぴっと立て、にかっと笑うその姿が眩しい。

「だからって、いきなりアメいれないでください」
「なんや、ご機嫌斜めやな」
「そ、そんなことありません」
「ん? さよか」
「この味って……」

 あの時もらったものと同じもの。
 目に良いと言われている、ブルーベリーのアメ。
 あわてて確認した端末は、十月三十一日と表示されていて、丁度一年前であったことわかる。

 これは偶然ですか?

「どうかしたん?」

 不思議そうにこちらを見るその顔からは、何も伺えない。

 貴女は知っていますか?
 今日がなんの日か……
 そして……
 この花言葉を……

 ぐるぐる回る思考。
 ちっともまとまらないそれを放り出し、腕の中に飛び込むと、一緒にソファの上におさまる。
 近くに感じるぬくもりと鼓動に、胸が詰まる。

「お? なんや、今日は甘えたやね」

 どこかうれしそうに、頭の上にのせられる掌。
 髪を梳くようになでる掌が、とてもあたたかくて……

「……いいじゃないですか、たまには」

 背中に回された腕に、安心できるようになったのはいつからだっただろう。
 そんなことを考えていると、まぶたがゆっくりとさがって……

「ねむいん?」
「……ねむく……ない……です」

 この時間がまだ続いて欲しくて、シャツをきゅっと握り首を振る。

「ちゃんとここにおるから」

 笑いをこらえながら、紡がれた言葉。

「おやすみな、ヴィヴィオ」

 くしゃりと頭をなでられて……
 そのまま眠りの世界に潜り込んだ。

                     END










初めましての方は初めまして、そうでない方はご無沙汰しております。
気まぐれ工房蒼の高宮です。
今年も祭りの季節となりましたね。
去年に引き続き参加させていただきました。

一年経って、ヴィヴィオさんはおぼろげに自覚をし始めた……という感じで、
まだもやもやっとしているという雰囲気で書かせていただきました。
でも、はやてさんが気がつくのはもう少し先のお話になりそうですね(苦笑

「あ〜もう、この二人は!」とか思って頂けると幸いです。

ちなみに、ブルーベリーの花言葉は
「信頼思いやり」「親切」「好意」です。

一年前の出来事が気になる方はこちら→◆一年前にあったこと◆

さてと長くなりましたのでこの辺りで……
企画の成功を祈っております!


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